中小企業の採用戦略の立て方|求人票を直せば採れる、という話ではない

早田経営支援オフィス 早田直弘|杉並区・中野区の中小企業診断士×社会保険労務士

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中小企業の採用戦略は、求人票の書き方から立てるものではありません。誰を採るのか。待遇は周りと比べてどうか。入った人を受け止める仕組みがあるか。課題は、この三つの土台にあることが多く、募集の内容にも表れます。

「ずっと求人を出しているのに、人が採れない」。私は採用の相談で、この言葉をよく聞きます。求人票の文章を変えたい、写真を増やしたい、ハローワークやIndeedなどの求人媒体を変えたい。社長がまず直そうとするのは、目に見える募集の内容です。

求人票を直して採れるようになる会社は、確かにあります。応募が来ない原因が記載内容にあるなら、そこを直せば効きます。その話は「中小企業の求人に応募が来ない原因」に書きました。

ただ、私が相談を受けてきた中では、原因が求人票の外にある会社も少なくありません。この記事では、会社の中の課題まで含めた採用戦略の立て方を書きます。

求人票の外にある、採用の三つの土台

私は、求人票の外にある土台を三つに分けて見ています。一つ目は、誰を採るかが決まっていないことです。「パートをしたい主婦」のように属性を決めただけでは、誰に向けて書くのかは決まりません。考え方は「採用で『いい人が来ない』の正体」に書いています。

二つ目は、待遇が相場から離れていることです。給与や休日が周りの会社より大きく劣っていると、求職者は条件を比べた時点で他社を選びます。求人票の言葉を工夫しても、この差は残ります。

三つ目は、入ったあとの受け皿がないことです。会社が教える仕組みも相談できる相手も用意せずに現場に出すと、採れても定着しません。

三つとも、求人票に表れます。誰を採るかが決まっていない会社は、誰にでも当てはまる文章になります。待遇が低い会社は、給与の欄で比べられて終わります。受け皿のない会社は、育成や教育について書けることがありません。

求人票では埋められない待遇の差:月給2万円の事例

この記事で紹介する事例は、関係者が特定されないよう、業種・規模・地域を伏せています。

ある会社の社長から、ずっと求人を出しているのに人が採れない、という相談を受けました。募集していたのはパートです。

求人の条件を周りの会社と比べると、平均的な時給より130円ほど低い水準でした。月160時間働く場合に換算すると、月給で2万円を超える差になります。

私は社長に、月給で2万円以上の差がついていると採用は苦戦します、と伝えました。これは私の経験則です。社長は反論しませんでした。ただ、困った顔をしていました。給料をそれ以上は上げられないからです。

私はまず、給料を上げるための元手、つまり原資を作る話をしました。ただ、会社は人を急いで採らなければなりません。そこで、苦戦することを先に伝えたうえで、給料以外の条件を緩めて募集してみることにしました。

それまでの条件は、週4日以上、1日8時間以上でした。これを、週2日から、1日5時間からに変えました。

勤務日数と時間の条件を緩めても、人は採れませんでした。時給の差は残ったままでした。

求人の原稿にどれだけ良いことを書いても、給料の低さはごまかせません。働く人にとって、給料はきれいごとではないからです。

私は、社長も薄々は分かっていたと思います。それでも、やってみないと諦めがつかない。やってみて駄目だったことで、社長の気持ちは決まりました。財務を改善して人件費に回せる資金を増やし、原資を作るという方針です。

採用の原資は、経費と売上の両方から作る

私は、原資作りを経費の見直しから始めました。経費は、自分たちで確実に動かせるからです。売上はお客さんが相手なので、必ず上げられるとは限りません。

最初に手を付けたのは事務所です。それまでは事務方の社員が全員出社していました。そこで、事務方に限って一時的にリモートワークを取り入れました。出社する人数が少なくても回る小さな事務所に移り、家賃を下げました。

社長は、自分の役員報酬も減らしました。仕入れ先も見直しました。それでも、経費の見直しだけでは足りませんでした。そこで、売上と、売上から仕入れなどの原価を引いた粗利にも手を付けました。

まず、値上げを進めました。今のお客さんには、季節の商品を加えて提案しました。顧客リストを使ってダイレクトメール(DM)を送り、新しい商品を案内しました。来店の回数を増やしてもらうための工夫です。

新しいお客さんを増やすために、これまで撒いていなかった地域にもチラシを撒きました。初めて来店した人には特典を付けました。

原資ができるまでの間、会社は仕事のやり方を見直して、足りない人手を補っています。一人分をまるごと浮かせることはできませんでした。社員の残業は、人が採れていた場合よりは多くなります。それでも、欠員をそのまま抱えていた場合よりは少なく済んでいます。

事務方の社員は、リモートワークで通勤の時間をなくし、労働時間が伸びた分の負担を軽くしています。ただし、会社はリモートワークを一時的な緊急避難の措置として取り入れています。ずっと続けるものではないことを社員に伝え、書面で了承を得ています。

私は、社長自身にも無理をしてもらっています。社員にしわ寄せがなるべく行かないよう、今は社長の労働時間が長くなっています。こうして、原資ができるまでの一年を持ちこたえる形を作りました。

原資作りを始めてから、ちょうど半年ほどです。あと半年ほどで、周りの会社と同じか少し上の賃金で、求人を出せる見込みです。

原資作りが大変だったのには、理由があります。会社は、新しく募集する人の給料だけを上げればよいわけではありません。今いる社員の給料も上げなければ、社員のモチベーションが下がります。求人に載せる金額の分だけでなく、全員の分の原資が要りました。

待遇の差は、求人票の書き方では埋まりません。埋めるには、会社の財務から手を入れることになります。

中小企業の採用戦略は、10の要素で立てる

この事例では、相場より低い待遇が採用を妨げていました。取り組むべき課題は、給料を上げる原資を作ることでした。会社によって採用を妨げる原因は違うため、私は10の要素から原因を探り、課題を整理しています。

私は、今ある強みを求職者に伝えるために、七つの要素を見ています。誰を採るかを決めるターゲット。その人を具体的な一人として描くペルソナ。課題や不安の奥にある、仕事選びの本音を捉えるインサイト。

求職者が求人を見つけてから応募するまでにたどる道筋であるカスタマージャーニー。自社の求人の数字と、比べられる他社の条件を見るデータ分析と競合調査。求人票に書いてはいけないことと、書かなければいけないことを定めた法律。そして、求人票の書き方です。

さらに、採用に必要な強みを作るために、三つの要素を見ています。給料を上げる元手になる原資。休みの取りやすさや評価の仕組みといった働く環境。入った人を教えて育てる受け入れの仕組みです。

私は、この10の要素を横並びには考えていません。中心に置いているのはインサイトです。ターゲットとペルソナは、インサイトをつかむための準備にあたります。

カスタマージャーニーとデータ分析は、求人を届けて比べるための道具です。法律と書き方は、決まりの中でどう表現するかの話です。そして原資・働く環境・受け入れは、求人票に書く中身そのものを作ります。

求人票の書き方は、10のうちの一つにすぎません。

「うまくいく」を定義すると、採用の課題の場所が分かる

「採用がうまくいかない」と言うとき、私は何がうまくいっていないのかを切り分けます。うまくいっている状態は、三つの条件で定義しています。一つ目は応募が来ること、二つ目は応募者が自社に合っていることです。そして三つ目は、採用でき、定着することです。

応募が来ないのか、来るけれど合わない人ばかりなのか、採れても辞めるのか。どこで止まっているかで、直す要素は変わります。定義があいまいなまま「うまくいかない」と言っていると、会社は目についたところだけを直すことになります。多くの場合、それが求人票です。

私は、募集段階の課題を四つに分けています。ターゲットの設定、求人の条件、媒体の選び方、表現の仕方が合っていない場合です。今回の事例は、条件が合っていない形でした。条件が合っていない会社が表現だけを直しても、結果は変わりません。

求人票は、会社の中身が最後に表に出る場所です。中身が変わらなければ、何度書き直しても、応募はなかなか増えません。

求人票の添削や求人媒体の提案だけでは、給料を上げる原資までは作れません。待遇を変えるには、売上や粗利、経費に踏み込む必要があります。

私は中小企業診断士として、採用条件を変えるための経営改善まで支援しています。今回の事例でも、求人の条件を緩めるだけで終わらず、社長と一緒に原資作りを進めました。求人票に何を書くかだけでなく、書ける条件をどう作るかまで関われることが、私の強みです。

自社の採用がどこで止まっているのか分からないときは、ご相談ください。今回の事例のように、採用の課題が財務の課題とつながっていることもあります。

この記事を書いた人

早田直弘

早田直弘(そうだ なおひろ)

中小企業診断士・社会保険労務士

早田経営支援オフィス代表。

人の問題を経営改善の視点から、経営の問題を人の切り口から、複合的に根本から解決していく、杉並区・中野区の中小企業診断士×社会保険労務士。

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