注意しても直らない社員への対応|「やらない」のか「できない」のかを見分ける
早田経営支援オフィス 早田直弘|杉並区・中野区の中小企業診断士×社会保険労務士

何度注意しても直らない社員がいる。同じミスを繰り返す。決められた手順が守られない。書くべき記録が、後からまとめて書かれている。問いただすと「忘れました」「わかりません」で終わる。
こういう社員にどう対応すべきか、という相談は、実際に少なくありません。社長の頭に浮かぶのは、たいてい二つです。もっと強く叱るか。それとも、辞めてもらう方法を調べるか。
実務の答えは、どちらでもありません。順番があります。実例を交えて書きます。
社員への指導は、自社の指示の検証から
意外に思われるかもしれませんが、最初の一歩は、相手に原因があるとまず思わないことです。
先に検証するのは、自社の側です。指示に、不手際や曖昧さはなかったか。教え方は十分だったか。口頭でふわっと伝えただけのことを、「言ったのにやらない」と数えていないか。
だから、指導は書面にします。何を、いつまでに、どの手順でやるのかを具体的に書いて渡す。マニュアルがなければ作って示す。これは相手を追い詰めるためではありません。指示を書面にして初めて、「指示は明確だった」と言える状態になるからです。曖昧な指示のままでは、守られなくても、伝わっていなかっただけかもしれない。自社の指示を検証できる形にすること。それが出発点です。
「やらない」と「できない」では対応が違う
指示を明確にし、根気よく指導を続けると、初めて見えてくるものがあります。この人は、わざとやらないのか。それとも、できないのか。
この二つは、対応がまったく違います。そして、じっと観察していても見分けはつきません。明確な指示と十分な指導を与えて、それでも変わらないかどうか。手続きを踏んで、初めて切り分けられるのです。多くの会社は、この切り分けの前の段階——曖昧な指示のまま——で怒っています。
始末書・顛末書から見えた、指導しても「できない」可能性
支援先で、実際にあった話です。関係者の特定につながる情報は伏せて紹介します。
決められた手順が守られず、記録にも不審な点が続く社員がいました。指導の一環で、何が起きたのか、なぜ起きたのかを自分の言葉で書いてもらうことにしました。始末書や顛末書の類です。
出てきた文章を見て、考えが変わりました。文章の幼さが気になったのです。何度書いてもらっても、何が問題だったのかの理解に届かない。
ここまで繰り返されると、本人の怠慢ではなく、能力的な限界なのかもしれない。理解する力そのものに困難があって、福祉や医療の力を借りるべき領域かもしれない。そう見立てを変えて、健康面の相談を勧める方向に切り替えました。
反省文を書かせることは、反省を促す手段であると同時に、理解力を見る材料にもなります。「やらない」と決めつけて懲戒に進んでいたら、会社は誤った対応をしていたことになります。できない人を叱っても、何も解決しません。必要なのは、叱責ではなく支援や配置の工夫です。
本気の指導が、行動の改善と会社を守る記録につながる
一方、切り分けの結果、「できるのに、やらない」と見えてくる場合もあります。
指導の記録は、最初の段階から残し、その後も積み重ねていきます。いつ、何を、どう指導したか。本人がどう応じたか。適切な指導を何回も行ったという、隙のない記録。行動が変わらないまま最終的に退職勧奨や、最悪の場合は解雇を考えざるを得なくなったとき、会社を守るのはこの記録です。年単位の仕事になることもあります。
ただし、ここで一番大事なことを書きます。形だけの記録集めは、やめてください。
記録のための指導は、本人に見抜かれますし、後から見られたときにも弱い。本気で行動を変えてもらうつもりの指導だけが、記録としても強いのです。矛盾しているようですが、そうではありません。本気で指導して、変わってくれるなら、それが一番いい結末です。変わらなかったとき、その本気の積み重ねが、そのまま会社を守る材料になる。指導と記録は、別の作業ではなく、同じ行為の両面です。
そしてもうひとつ。この根気のいる過程は、会社の指導力を磨く機会にもなります。書面で指示を出す、マニュアルを整える、指導を記録する。問題のある一人のために作った仕組みは、他の全員の教育にもそのまま効きます。
注意しても直らない社員への対応は、専門家と進める
ここまでで、やることの全体像が見えたと思います。指示の書面化。マニュアルの整備。指導の記録。切り分けの見極め。就業規則の懲戒規定の確認(何が懲戒の対象で、どんな処分があるかだけでなく、処分の重さを決める判断基準まで書かれているか。行為の重大さや故意・過失、指導後の改善状況、繰り返しの有無など、実際の対応を判断できる具体性が必要です)。そして場合によっては、福祉・医療との連携や、退職勧奨の進め方の設計。
正直、多いです。そして、進め方を誤ったときのリスクが大きい。特に解雇が視野に入る話は、法的リスクが最大級です。手順を踏まずに進めて、後から争いになれば、会社が負う傷は問題社員どころではありません。
だから、この種の問題は、一人で抱えて進めず、専門家に相談しながらやることを勧めます。感情的にならず、順番を踏んで、記録を残しながら。遠回りに見えて、それが一番早くて安全な道です。
解雇や退職勧奨を具体的に検討する段階では、法的な見通しや進め方について、弁護士への相談が必要になる場合もあります。当事務所では弁護士とも提携しており、状況に応じてご紹介できます。
また、相談の場が必要なのは、指導を受ける社員だけではありません。指導する上司や担当者も、伝え方に迷い、改善が見られないことに疲れてしまうことがあります。悩みを抱え込まず、具体的な指導方法や、相手の反応に応じた対応の仕方を相談できる場も必要です。
当事務所では、1級キャリアコンサルティング技能士と中小企業診断士の両資格を持つ専門家と提携しています。就業規則や指導記録の整備に加え、提携する専門家と連携し、会社の人材育成や組織運営も踏まえて、指導する側の悩みや具体的な指導方法、対応の仕方について相談に応じます。
なお、長年勤めたベテランとの関係がこじれた場合の向き合い方は、別の記事「ベテラン社員と後任がこじれたとき」に書きました。あわせてどうぞ。
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