ベテラン社員と後任がこじれたとき|敵対せず、横に座る

早田経営支援オフィス 早田直弘|杉並区・中野区の中小企業診断士×社会保険労務士

ベテラン社員と後任の引き継ぎがこじれた実例を、書ける範囲で書きます。

支援先の中小企業に、ある業務を長年ひとりで担ってきたベテラン社員がいました。細かな段取りも判断の基準も、その人の頭の中にしかなく、ほかの人が代わるのは難しい。いわゆる属人化です。

将来を考えて後任を採用し、引き継ぎを始めたところで、問題が起きました。指導が厳しく、後任が萎縮してしまったのです。

見かねた社長が声をかけると、ベテランから長いメールが返ってきました。間違いがあると困るから厳しくなるのは仕方がない。教えることを教えたら、身を引くことも考えている。この仕事は、どこへ行っても同じだ。そうした内容でした。

どう話をすればよいか分からず、社長から私に相談がありました。

ベテラン社員の苦労を認めるところから、話を始める

私が社長に最初に勧めたのは、これまでの働きを労うことでした。

このベテランは、誰にも教わらず、自分の工夫で仕事のやり方を一から作り上げてきた人です。長年その仕事を支えてきた苦労がある。後任への接し方に問題があっても、それまでの貢献までなくなるわけではありません。

メールを読んで私が考えたのは、自分のやり方を否定されたと感じて、身構えているのではないか、ということでした。ただ、文面だけで本人の気持ちを決めつけることはできません。だからこそ、まず話を聞く必要があります。

社長には、「この人の立場では、どう見えているだろうか」「こう受け取ったのではないか」と、相手の側から考えられることを伝えました。

納得することと、理解しようとすることは別です。社長にとって不合理に見える言い分でも、本人にはそう考える理由があるかもしれない。自分の常識をいったん横に置いて、そこを聞いてみる。

面談では、横に寄り添って座るような姿勢で向き合ってほしい、と伝えました。実際の座席の話ではありません。同じ問題を一緒に眺めるつもりで、話を始めるということです。

引き継ぎの目的は、後任が仕事をできるようになること

もちろん、苦労を理解するだけでは、後任への指導の問題は解決しません。

間違いを防ぐために、必要な注意や確認はあります。ただ、相手が萎縮して質問もできなくなるようなら、教え方を見直す必要があります。後任が仕事を覚えられなければ、引き継ぎは進まないからです。

また、「どこへ行っても同じ」という言葉では、この会社で起きている問題への答えにはなりません。今、どんな教え方をしていて、後任は何に困っているのか。そこを具体的に確かめる必要があります。

指導の内容によっては、パワハラの問題にもなります。職場のパワハラは、次の3要素をすべて満たすものです。

  1. 優越的な関係を背景とした言動であること
  2. 業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
  3. 労働者の就業環境が害されること

「優越的な関係」は、上司と部下だけの話ではありません。業務に必要な知識や経験を持ち、その人の協力がなければ仕事を進めにくい場合も含まれます。長年ひとりで業務を担ってきたベテランと後任の関係でも、この点を確認する必要があります。厚生労働省の定義・解説

こうした問題も、社長には伝えました。ただし、本人の苦労や立場について考えることを先に置き、法的なリスクの説明はその後にしました。

最初から「問題を起こす人をどう処理するか」という構えになると、本人の話を聞く余地が狭くなります。こちらが間違いを指摘するほど、相手も自分を守ろうとして、話が進まなくなるおそれがあります。

この順番は、問題のある行動を放置するという意味ではありません。後任を守り、必要な指導の見直しを進める。そのために、本人と話のできる関係を作るということです。

対話の後、引き継ぎに区切りをつける言葉が届く

社長は、本人と長い時間をかけて話しました。これまでの働きを認め、不満にも耳を傾けたそうです。

私がしたのは、面談前の助言です。実際に本人と向き合い、話を聞き続けたのは社長でした。

対話の終わりには、引き継ぎを進めて区切りをつける方向で合意できました。そして面談の後、本人から社長に、話しているうちに、自分は話を聞いてほしかっただけなのかもしれないと思った、という内容のメールが届きました。

この言葉だけで、厳しい指導の理由をすべて説明することはできません。ただ、最初のメールでは見えなかった気持ちが、話を聞く中で出てきたのだと思います。

本人が納得することは、引き継ぎを進めるうえで大切です。そのうえで、後任が安心して教わり、仕事を担えるようになるところまで見る必要があります。ベテランとの関係が落ち着いたかどうかと、引き継ぎがうまく進んでいるかどうかは、両方確かめたいところです。

面談の前に、自分の対応を点検する

同じような問題を抱えているなら、まず、面談で何をしようとしているかを点検してみてください。

間違いを認めさせたいのか。言うことを聞かせたいのか。それとも、本人の考えを聞き、後任への教え方や引き継ぎの進め方を話し合いたいのか。

腹が立っているときに、自分だけでそこを整理するのは難しいものです。面談の前に第三者に相談し、相手への見方や、自分が伝えたいことを整理しておく方法があります。

今回、私が取ったのも、社長が本人と話すための準備を支える立場でした。外部の人間まで同席すると、本人が「責められる場だ」と受け取るおそれがあると考えたためです。

同席がよいか、事前の相談にとどめるかは、相手との関係や面談の目的によって変わります。専門家がその場に入ることだけが、支援の方法ではありません。

こじれる前から、話せる機会をつくる

問題が大きくなる前から、従業員や指導役が困りごとを話せる機会を設けておくことも大切です。

教わる側が困っていることと、教える側が難しいと感じていることは、必ずしも同じではありません。普段からそれぞれの話を聞ければ、行き違いに気づき、教え方や仕事の進め方を見直すきっかけになります。

当事務所の定着・育成支援では、従業員・指導者の個別相談や、育成計画の進捗確認を通じた教え方・接し方の支援を行っています。個別相談の内容は原則として会社へ共有せず、ご本人が共有を希望された内容のみお伝えします。

長年会社を支えてきた人との関係がこじれると、社長も感情的になりやすいものです。だから、話す前の準備が大切になります。

これまでの働きを認め、本人の考えを聞く。そのうえで、後任が仕事を覚えるために何を変えるかを話し合う。相手を言い負かすことに気持ちが向いていないか。面談の前に、一度立ち止まって考えてみてください。

なお、何度注意しても行動が変わらない社員への対応は、「注意しても直らない社員への対応」に書きました。

この記事を書いた人

早田直弘

早田直弘(そうだ なおひろ)

中小企業診断士・社会保険労務士

早田経営支援オフィス代表。

人の問題を経営改善の視点から、経営の問題を人の切り口から、複合的に根本から解決していく、杉並区・中野区の中小企業診断士×社会保険労務士。

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