資金繰り表の作り方|完璧を目指さず、まず一枚
早田経営支援オフィス 早田直弘|中小企業診断士×社会保険労務士

資金繰り表が何のために要るのかは、別の記事(資金繰り表の考え方)に書きました。この記事は、実際に一枚作るための手順です。
最初から完璧な表を目指す必要はありません。目的は、資金が「回りそうか、回らなさそうか」を把握することです。それが分かる精度で、まず一枚作る。細かい作り込みは、必要になってからで間に合います。
白紙から作らなくていい
エクセルを開いて、一から罫線を引く必要はありません。公的機関が無料のひな型を配っています。
日本政策金融公庫が資金繰り表の簡易版様式を、東京信用保証協会が計算式入りのエクセルを公開しています。取引のある信用金庫や銀行が、取引先向けに配っていることもあります。「資金繰り表 様式」で検索すれば見つかります。計算式が組んであるものなら、数字を入れれば残高まで自動で出ます。
用意する資料は、手元にあるものだけ
新しく何かを集める必要はありません。
- 決算書一式。特に「法人事業概況説明書」。法人税の申告書に添付されている書類で、月ごとの売上高が12ヶ月分並んでいます。これが土台になります。
- 通帳。今の残高と、毎月の引き落としの確認に。
- 借入の返済予定表。毎月の返済額の確認に。
埋める順番は、三段階
いきなり売上予測から考え始めると、そこで手が止まります。埋めやすいところから埋めるのがコツです。
第一段階:確定している数字を先に埋める
家賃、リース料、保険料などの固定費や、借入金の毎月の返済額から入れます。ここは確定している数字なので、迷わず埋められます。
ここで忘れやすいのが、年に数回だけ出ていく大きな支払いです。消費税や法人税の納付、労働保険の年度更新、固定資産税。毎月の商売の流れには出てこないのに、特定の月にまとまって出ていきます。ここを入れ忘れると、「納税月に急に苦しくなる」が起きます。
自社がいつ、どの税をいくら払うことになるかは、顧問税理士に確認して、その月に入れておいてください。消費税は前年の税額によって納付の回数が変わることがあり、売上が伸びた翌年は納付の負担が変わります。
なお、人件費は賞与も含めて月割で均してしまって構いません。年間の総額さえ入っていれば、月ごとの配分が実態と多少ずれても、資金が足りるかどうかの判断は狂いません。ただし、表に載せていない支出があるのは別の話です。均すのと、入れ忘れるのは、まったく違います。
第二段階:「例年通りなら」の数字を置く
売上は、法人事業概況説明書の月別売上を、そのまま横に写します。季節変動を頭で考える必要はありません。3月が忙しい会社なら、前期の数字に3月の山がそのまま出ています。それを写せば、実態に合った12ヶ月になります。
仕入や外注などの変動費は、前期の原価率をそのまま売上に掛けて置きます。経費は固定費と変動費に分けて、変動費だけ売上に連動させます。
ここまでで、「今のまま、何もしなければ、資金がどう動くか」の一枚ができます。まずはこの一枚で、12ヶ月先までの残高を眺めてください。回りそうか、回らなさそうか。細る月はどこか。それが見えることが、この表の最初の仕事です。
第三段階:打ち手を乗せる
新しい販路、新商品、値上げ、経費の削減。これからやる施策を、数字にして乗せていきます。
このとき、二つ守ってください。
ひとつ。売上だけでなく、その施策にかかる費用も同時に入れる。 広告費、増員の人件費、仕入の増加。売上だけ乗せて費用を忘れると、表の上だけ楽観的になります。
ふたつ。既存の事業と、新しい施策は、別のシートで組み立てる。 新しい商品は既存と粗利率が違うことが多く、季節の動きも違います。同じ行に混ぜると、利益の計算が狂ううえ、あとで予定と実績を見比べるとき、「既存が落ちたのか、新規が立たなかったのか」が分からなくなります。シートを分けて組み、本体の表には数式で合算した数字を持ってくる。この作りにしておくと、毎月の振り返りで原因がすぐ特定できます。
どこまで厳密に作るか
ここが一番、質問の多いところです。
入金や支払いのタイミングは、取引先ごとに違います。月末締めの翌月末払いもあれば、翌月5日払いもある。すべてを正確に反映することもできますが、作り込みには時間がかかります。それでも、多くの場合、結論は変わりません。
目安はこうです。
- 数日のズレは、無視して一括で構いません。月末に入るか翌月頭に入るかで、月次の判断は大きく変わりません。
- 1ヶ月以上ずれる取引先だけ、分けて反映してください。 回収サイトの長い得意先、支払サイトの長い仕入先。ここは結論を変えうるので、省かない。
- 「この月、足りるかどうか微妙だな」という月が出てきたら、その月だけ入出金のタイミングを詰めて精査する。全部の月を精密にする必要はありません。
精度を上げることは、いつでもできます。ただし、専門家に頼めば費用が、自社でやれば社長や経理の時間がかかります。どこまでも精密にした表と、適切に簡略化した表で、「回りそうか、回らなさそうか」の答えはたいてい同じです。
ざっくりすぎれば、どんぶり勘定です。精密すぎれば、労力の割に得るものがない。結論を変える数字(載せ忘れの税金、長い支払サイト、粗利の違う新規事業)は省かず、結論を変えない数字(数日のズレ、賞与の月割)は簡略化する。この加減が、実務の線です。
なお、月末を越せるかどうかが数日単位で問題になっている状態なら、話は別です。それは月次ではなく、日々の資金繰りを見る段階です。表の精度の話ではなく、対応の緊急度が違うので、早めに専門家に相談してください。
まず一枚、作ってみる
ひな型をダウンロードし、決算書と通帳を手元に置いて、確定している数字から埋めてみてください。慣れれば、最初の一枚は数時間でできます。
完璧な表を一年かけて作るより、八割の表を今月作って、毎月直していく方が役に立ちます。予実管理の概要は、資金繰り表の考え方に書いています。金融機関との共有については、後日あらためて書きます。
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